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『沈黙』 (2)
2018/08/05(Sun)
 遠藤周作は、この作品のなかで、私たち日本人がもつ疑問について悉く提示しているように感じられます。
一神教に対する疑問については、本文中、
 ≪(しかし、万一・・・・もちろん、万一の話だが)胸のふかい一部分で別の声がその時囁きました。(万一神がいなかったならば・・・・)これは恐ろしい創造でした。彼がいなかったならば、何という滑稽なことだ。もし、そうなら、杭にくくられ、波に洗われたモキチやイチゾウのなんと滑稽な劇だったか。多くの海をわたり、三か年の歳月を要してこの国にたどりついた宣教師たちはなんという滑稽な幻影を見つづけたのか。そして、今、この人影のない山中を放浪している自分は何という滑稽な行為を行っているのか。≫
 と自問自答する部分があります。

 また、日本では、西洋からキリスト教という宗教が伝わったために、多くの殉教者を出しました。西洋からのキリスト教が本当に必要だったのでしょうか?本文中、
 ≪私の長い間の想像は間違っていませんでした。日本人の百姓たちは私を通して何に飢えていたのか。牛馬のように働かされ牛馬のように死んでいかねばならぬ、この連中には初めてその足枷を棄てる一筋の路を我々の教えに見つけたのです。仏教の坊主たちは彼等をこの生がただ諦めるためにあると思っているのです。≫
 とあり、必然性について述べられています。確かに今日でもこれだけの災害がありながら、お寺に避難したというような報道をまったく見聞きしないのも不思議なことと思えなくもありません。

 そして、日本人はキリスト教をどのように受け入れたのかという疑問については、
 ≪もう一つ注意しなければならないことは、トモギ村の連中もそうでしたがここの百姓たちも私にしきりに小さい十字架やメダイユや聖画を持っていないかとせがむことです。そうした物は船の中にみな置いてきてしまったと言うと非常に悲しそうな顔をするのです。私は彼等のために自分の持っていたロザリオの一つ一つの粒をほぐしてわけてやらねばならなかったのです。こうしたものを日本の信徒が崇敬するのは悪いことではありませんが、しかしなにか変な不安が起こってきます。彼らはなにかを間違っているのではないでしょうか。≫
 これは偶像礼拝の事を言っているのではないかと思えます。彼は自分の身に何か起こるとイエスキリストに起こった出来事の似た部分を思い起こし、自分が想像するところのキリストの顔や気持ちを思い、自分を重ね合わせて至福を感じ敬虔な気持ちになるのでした。
 もう一つといった時の後の一つは、彼が転んだとき、≪自分は布教会から追放されているだけではなく、司祭としてのすべての権利をはく奪され・・・≫というところの組織内での権利への執着といったようなものです。

 また、私たち日本人が受け入れることができる宗教とは、どのようなものなのか。
 仏教は、今ここにこうしてある自分へのありようの認識だということもあり、これは宗教ではなく哲学だと言われることがよくあります。しかし、哲学ばかりでは割り切れないのが人間です。生き物はたいてい必ずほかの生き物を食べることによって自分の命を支えています。私事でいえば、私の母の南無阿弥陀仏は、たとえば一鍬打つごと土の中の生き物を殺めていることへの南無阿弥陀仏でした。最小限の殺生で生きていくことを誓う南無阿弥陀仏だったのかもしれません。
 遠藤周作は、この作品の前に読んだ3冊の作品のどこかで、保守的ということばで、キリスト教の自殺の禁止、堕胎の禁止をあげていたように思います。人間が誕生することとその生を長らえるということだと思います。
 すると、この作品でロドリゴが踏み絵を踏まなければ、自分もほかの信者も殺されるというときに、踏み絵を踏むことは、「転び」ではあっても棄教ではないというのが、彼の考える神であり、私たちの受け入れられる宗教であると思えるのです。
 この作品の文脈からいうところの、踏み絵を踏んでしまうという考え方は、仏教でいうところの親鸞の考え方と思えます。
またほかの作品で、遠藤周作が死ぬまでこの男(キリスト)と妻を棄てない決心をしたと述べているところがありました。この作品は、病気でもう助からないと感じたとき寄り添ってくれたこの男(キリスト)と妻をどのようなものだと考えるかによって自分が生きていけるかということを考え抜いたうえでの作品だったと思います。
 彼が考えた神という概念は、キリスト教の信者の方々と深くわかりあえ弱きもの同志として理解できていきます。


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