FC2ブログ
『消えた娘』
2020/06/09(Tue)
 クレイ・レイノルズ著 土屋正雄訳『消えた娘』を読みました。
 新潮社より、1989年出版の文庫本です。

 ≪1940年代のある日、イモジンは18歳の娘コーラを連れ、アガタイトの町にたどりついた。夫に愛想が尽き、家を出てきたのだ。車が故障し、役所前広場のベンチで修理を待つ間、娘は5セント持って向かいの店にアイスクリームを買いに行った。そしてそのまま、30分、1時間、1週間・・・・・・。
 イモジンはひたすら娘の帰りを待ち続ける。今までに例のないまったくユニークな心理サスペンス。≫
 と、カバーにあります。
 まったく、最後まで、このベンチに座り続けるイモジンが描かれていきます。
 彼女は、娘のコーラがアイスクリームを買いに行った向かいの店の店主が、彼女はここに来なかった。自分は見ていない。と答えるのがどうしても信じられず、怒り心頭の状態で、いつ帰って来るかわからない娘を、彼の薬局をじっと見つめながら待ちます。薬局の店主の人の好さを知っている町の誰をも信じられない気持ちから、通りすがりのアガタイトの町では狂人と呼ばれるようになります。それは、おなじく役所前広場の南北戦争の記念銅像とおなじように、町の風景にまでなっていく彼女の姿にまでなってゆきます。

 役所には保安官も勤務していて、当然、職務として18歳の少女がいなくなったのですから、気持ちの逆上するイモジンの捜索願に近い要求にこたえる必要があり、関わりを持たないわけにはいきません。然し何の手掛かりもつかめません。ここでは、普通のミステリー小説と違って、愛する妻を亡くして、一人暮らしになり、おいしいコーヒーさえ入れられない保安官の生活が語られます。町の人から信頼されて、それに応えたい保安官として思いからくるイモジンへのかかわりが、心理的にはだんだん質が変化していく状況をミステリアスに語るので、もしかして、彼がこの小説の主人公とも思えてきます。しかし実際、田舎町の保安官の心情としては、半分それが普通ではないかとも思えてきます。
ハロウィンが近づいた頃、保安官は、イモジンを不良仲間がからかっていじめようとしているとの通報を受け、なにげなくイモジンをベンチから引き離しておく必要にせまられ、彼女を食事に誘います。しかしこのとき、日ごろの思いが募り、愚かにもイモジンに求婚してしまいます。彼女から好色な男性だと、ひどい言葉で罵られ拒否されるところから、彼女との接点はほとんどなくなります。
そして、保安官にある日ニューオリンズ市警察からいなくなった娘コーラについての報告書が届きます。保安官は捜査の初期段階でコーラの指紋を何かからとっておかなかったことを悔いていました。結局決定的に報告書の自殺死体がコーラであることの確証が正式にえられず、報告内容は保安官の胸の内におさめたまま終わります。

今朝のテレビで、自宅待機していた人たちが、職場に行きたくなくなったというおおくの相談について、精神科医のメッセージなどと報道されていました。この小説で、ずっとベンチに座っていた女性が、もう娘のこともほとんど思い出さなくなってもベンチに座ることがやめられないというのと似ていると思えます。


スポンサーサイト



この記事のURL | 未分類 | コメント(2) | TB(0) | ▲ top
<<『大王と地方豪族』 | メイン | 『古墳とその時代』>>
コメント
-  -
 現実には娘が居なくなれば、夢中で辺りを探しまわります。ベンチに座って待ち続けるという設定が、現実とは乖離していると思うのですが、それが此の本の心理的設問の読みどころなのでしょうね。
世界には現実に我が子がさらわれ、或いは迷子となって何十年となく見つからないという話が多くありますね。自分の娘や息子と想像すると耐えられません。此の日本でも居なくなった子どもさんを探し続ける方が時折り報道され、なんとかならないものかと心痛みます。梅雨入りが近いようですね。お身体ご自愛下さいませ。
2020/06/09 18:54  | URL | みどり #-[ 編集]
- みどりさんへ -
 コメントありがとうございました。
 この作品は、新型コロナの最中に読んだことで少し読後感が普通とは違ったかもしれません。
 イモジンは、家出の準備にばかリ時間を費やして、行先の姉に連絡もせず、計画もなく家を飛び出して途中で娘がいなくなりました。この状態は、いきなりの新型ウイルスの出現によって、戦後、これから日本はどうなる。どんな社会が訪れるのか不安になっている状態と似ています。
 これからおこる社会現象や社会問題を予測し、その問題にどのように応えていきてゆくのか。そんなことを考える必要への一助にもなったかと思えます。

2020/06/11 16:53  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する


▲ top
トラックバック
トラックバックURL
→http://yamanbachindochu.blog106.fc2.com/tb.php/1353-ab539912

| メイン |