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『愛の渇き』 
2020/10/26(Mon)
 三島由紀夫著 『愛の渇き』 を読みました。
 『美徳のよろめき』と同じころに買ったと思われる新潮文庫ですが、なんと奥付もなく、解説の最後のページのようしの奥のはしが裏表紙に貼りつき、作品の最初のページのはしが表紙に張り付いて始まっているという、骨とう品にもなりそうな文庫本でした。

 『美徳のよろめき』は、抽象的な設定でしたが、この作品は地名も出て土着の文学っぽい感じを受けます。主人公の悦子は舅の弥吉の家で暮らしています。舅は関西商船を社長で引退する5年前に買い翌年別荘を建て、果樹園を作るべく果樹の栽培を園芸課に委嘱していたところでの生活です。男三人の子供は東京で教育を受けさせたのですが、先ずは次男の謙輔がそこにはいり、いまでは、亡くなった長男の良輔の未亡人の悦子、謙輔・千恵子夫婦、軍人として海外に勤務している三男の嫁の浅子とその子ども二人と、下男の三郎と女中の美代と、言った4つのグループが生活しています。果樹園の従業員はすべて兵役に取られ三郎ひとりです。悦子は内縁の妻扱いで弥吉のグループで、いろんな形で他のものとは贅沢な生活をして謙輔・千恵子夫婦などからは嫉妬もされています。

 この広い土地で果樹栽培の仕事をしながらの田舎で押し込められた生活では、仕事はしっかりできるのですが、裕福な良家のしつけを受けて育った悦子には退屈で自分の価値観への満足が得られないといった生活でしょうか。そんななか三郎に好意を抱くようになります。悦子は三郎の子を宿した女中の美代を三郎が天理教の祭りに出かけた間に暇を出させます。帰ってきた三郎を、もう長年放置されたままになっているブドウ畑へ夜中に来るよう約束させ、会って愛についての話をします。三郎は、彼女の意図にやっと気づき彼女に襲い掛かり彼女は悲鳴をあげます。悦子は二人がいないことに気づいてブドウ畑にやってきた舅の弥吉の護身用に持っていた鍬で三郎を殺してしまいます。弥吉は驚くものの自首するという悦子から鍬を受け取り、穴を掘って三郎を生めて跡形のないようにするところで作品は終わります。謙輔夫婦も浅子も、三郎がいなくなったことについては、きっと女中の美代を追って出ていくだろうと言っていたことだったのでこの殺人は知られずに終わると思えます。

 悦子のこの気違いじみた結末は、三島由紀夫の結末を思い起こしもします。

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