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『渦』
2021/04/14(Wed)
 井上靖著 『渦』を読みました。
 1965年角川の文庫本です。これも先に読んだ『地図にない島』よりも分厚い628ページの文庫文でしたが、やはり一気に読み上げました。

 また、タイトルに象徴される事柄の意味がストーリーのいよいよ最後にわかってくるのも『地図にない島』同様です。
 16歳の戦災孤児の山西光一が、自分に母性愛を感じさせて暖かい気持ちにさせてくれるおばさんの中津伊沙子が、彼女の夫への腹いせに山西光一が嫌な男鳥巣と旅に出るとわかって鳥巣をピストルで撃って殺すというなんともなどんでん返しで小説が終わるのです。

 山西光一が怖いと思いながらも自分にとって父親と思っている勤め先の副社長の吉松が、見合いの世話をしている姪の宗方りつ子に、言い聞かせる言葉があります。
 ≪「僕は恋愛という言葉ほど嫌いなものはない。何が恋愛だ!週刊誌を開けばのっけから恋愛という文字だ。小説本を開けばまた恋愛。日本中、恋愛。――この間オオカミの話を読んだが、オオカミは交尾しているところを見つかると、見つけた相手をどこまでも追跡して行って、それをかみ殺してしまうそうだ」・・・・「恋愛というものに、もし価値があるとすれば、オオカミが目撃者をかみ殺してしまうように、そのような守られ方をした場合だけだ。恋愛自体に価値があるのではなく、そのように守られた場合、初めてそこに価値が生まれるのだ。これはオオカミが本能として持っている生態にすぎないが、動物の種族保存というのは、常にこのようにして守られてきたのだ。・・・・」≫

 山西光一が鳥巣を嫌いになったのは、鳥巣の家を訪ねた時、鳥巣の部屋で女性の寝た後の様子がうかがえる彼のベッドを垣間見たことがあったことでした。そんな鳥巣に誘われて旅行すると思える伊沙子が、いままで優しくしてくれても決して自分にお小遣いをくれたことがない伊沙子が餞別と思える大金を包んで持たせてくれたのです。旅行に行かせては、もうこんりんざい自分と会えなくなると思ったことからのピストル射撃は、吉松のいうオオカミの生態の再現のように思えます。

 吉松の数少ない言葉のなかに、できないけれども人間の理想とする動物の生態がいくつか語られていて、なかなか味のある小説でした。


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