『異境』(4)
2009/07/19(Sun)
 三浦朱門著 『異境』の続きを読む。

 「我が家」

 文也はシンガポールで20年、製薬会社の社員として働いた。

 いろんな国がそれぞれに近代化していく時代、20年の間には、任地国の国力も変わってくる。
 消費者に商品を啓蒙する時代から、その国内の同じレベルに達した製薬会社と競争する時代まで。
 任地国が、輸入に関して、あるいは国内での生産のための外資をどこまで法規制で許していくのかなど、発展状態によって、さまざまな課題がある。

 振り返って彼は思う。

 ≪ビルの壁面に一字あたり、十坪ほどあるかと思われる大きな文字で鑽石大厦というビルの名を書いてある。そのことを言うと、今では背広の上衣で太鼓腹を包んでいるユーは、
「わしは、昔と同じで字が読めないからな、あれだけ大きく書かないと、どれがわしのビルかわからんのだよ」と、いかにも大事業家らしく、腹をゆすって笑う。文也は彼を見ていると、自分のシンガポールにおける20年が、果たして何であったかはよくわからないながら、ユーという、一人の成金を作ったことだけはたしかだ、と思うのだった。≫

 そして、現地に体がなじめず、日本で家族を守って留守をしている妻に言う。

 ≪「病みほうけて帰るは我が家か」≫
と。

異国で、その国の経済発展とともに歩んだ20年。
帰国後、そこを離れて送る老後が、生まれた国とはいえ違う空間であることの虚しさが伝わってくる。

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