『好きな背広』
2007/11/10(Sat)
丸谷才一の『好きな背広』を読む

 『好きな背広』とは何枚かあるうちの背広で、いざ着るときについ手にとる背広が、結構同じものになっている。
 それといっしょで「話」もつい気に入った「話」ばかりになり、そんな話なので「それは二へん聞いた」ということがあるかもしれないが、書くのは初めてのような気がするので話します。という意味の本だそうだ。

 本人も言っているように最初の頃の話は最後の落ちでは大笑いをした。
だんだん専門的な話になると「ちんぷんかんぷん」で何がおかしいのかよくわからない話も何篇かある。

 彼は、何かについて興味を持つとそれを調べあげる。
その調べることをおもしろがっているところがあり、そのおもしろさを、共有できるところはいい。
 私たちも深く知りたいと思うことがあっても専門書が手元にない。
 せいぜい『広辞苑』程度だ。
 「えー、なになに」のところを自分が専門書を引いているようにわかってくるのがおもしろい。

 有名人のゴシップや、スキャンダルの話も多いい。
 悪意あってのものでなく、おもしろがってのものなので愛嬌はある。
 
 私にとっての興味あるゴシップの一例
 建礼門院のことである。
 建礼門院は、源平合戦で平家がことごとくやられて最後海に身を投じる安徳天皇の母親であるが、彼女が身を任せた男性たちのことである。
 建礼門院が、敵の源義経と関係を持ったかどうかということが丸谷才一の関心のあったところだった。調べれば調べるほど関心が深まり、あるとき東大国文助教授の久保田淳氏に意を決して聞いてみた。
 意外や意外、「それは春本作者の創作でしょう。むしろ『平家物語』のある種のテキストでいっているのは、宗盛とのイノセント(近親相姦)の関係です」との答え。
 また、いろいろ調べていくと、もう一人の兄の知盛との中もあやしくなってくるらしい。
 このことについては、時の平家の方々ともあろう者がと私もびっくりした。
 そしてもう一人後白河法皇との仲について、白洲正子の書に、後白河法皇の大原御幸についての記述で御白河法皇が何度か建礼門院を尋ねたているのは気があってのことと解釈していることについて触れている。
 自分は気づかなかったというのである。
 ショックを受けているのである。
 私も白洲正子はほとんど読んでいるのだが、こんなところでは「あらそうなの」といったふうに、読み流している。
 むしろ、建礼門院という人は今も昔いる、男性に異常な関心を持たせる女性であるということのほうが意外である。

 しかし、一時期にせよ国母であった方の異性関係となるとまた違った方面からの関心がなくもないが。


 もう一つ「間違いつづき」の話について

 この編では、いろいろな間違いの話がある中で、新宿のあるバーで知人にであったときのことが、思わず大笑いをしたので、書きしるしておく。
 その知人は連れの人がいてお互いを紹介した。
 「こちらは丸谷才一さん」とでも紹介したのだろう。
 相手は初対面とはいえ永井荷風の研究者として有名な小門勝二氏であったので、丸谷才一はそれなりの話題で相手に質問した。
≪すると小門さんは、
  「いや、小山内薫の小説のことは知りませんよ。そんなことを知っているのはあいつしかいない、ほら・・・・・」
  「ほう、そういう人いますか?」
  「います。ほら・・・・・クタニ・サイイチ」
  「クタニ・サイイチ?」
  とわたしはおうむ返しに言って、
  「はじめて聞く名前ですね。どういう人です?」その問いに対して小門さんはいまいましそうに
  「佐藤春夫のことを褒める厭な野郎です」
  「ははあ、クタニ・サイイチね」と私はもう一度くりかえしたが、そのとき、天来の啓示ののようなものがひらめいて、、、、、、≫
 というくだりがある。

 じつは、わたしは毎週火曜日の夜、読んでいる本について三言四言会合のあいまに話す人がいる。
 この火曜日はこんな会話だった。
「今なに読んでる?」
「うん、城山三郎。銀行のことを書いてるあれよ。」
「ふーん、おもしろい? わたしは丸谷才一よ。彼のものはまだ2冊目だけど」
「あ、そう、私ね、丸谷才一の丸って言う字ね、九と読み間違えてクタニ・サイイチと読んでいたのよ。」
だった。

 もうおかしくておかしくて、早速次の火曜日その友達にこの部分を読ませてあげよう。
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