『或る「小倉日記」伝』
2012/10/28(Sun)
 松本清張著 『或る「小倉日記」伝』 を読む。

 268ページの薄い文庫本である。
 或る「小倉日記」伝、父系の指、菊枕、笛壷、石の骨、断碑、の六つの作品が収録されている。
 そして最後田宮虎彦の解説がある。
 最初の作品を読んで、高い文学性にびっくりした。
 松本清張といえば長年、推理小説作家と思い込んでいたし、推理小説しか読んだことがなかった。
 最近になって、彼の歴史に関する読み物に興味を持つようになったところだった。
 『或る「小倉日記」伝』を読んで、次の作品を読む前に、田宮虎彦の解説を読んだ。この解説を読んで、松本清張のことを何も知らなかったことに気づいた。
 なんと、この『或る「小倉日記」伝』は昭和27年度後半期の芥川賞を受けた作品だということであった。言われてみれば、芥川賞の中でも傑出したものではないかと思われる。
 主人公の田上耕作は、岩波の鴎外全集が出るにあたり、鴎外の小倉で過ごした3年間の日記が喪失されて見つからずふかんぜんであるということを知り、鴎外の小倉での事蹟の調査をしようと思いつく。
醜い障害のある身をさらしながら、少ない手がかりを元に、調査をしていく。自分の取り組んでいる調査が意味のあることなのかどうなのか、さいなまされることも幾たび。そんな孤独を描いている。
残りの作品の主人公もすべて、孤独の道を歩む。
 主人公がアカデミックでない研究者であったり文学者であったりする。
 ≪生前の先生は日本のどの考古学者をも認めては居られなかった。人は先生の狷介不羈を言うが、そういう圭角のある性格に仕立てたのは日本の学界であった。学会が先生を白眼視したのは、その鋭い才能への嫉妬を、先生の不規則な学歴への蔑視に摩り替えたのだった。先生はそのため、どれほど苦しめられたかわからなかった。それでも先生は一時はT大の教授の席をしめた。先生の学問の実力であった。が、官学臭の権化であるT大がいつまでもその席を提供している筈はなかった。あることを理由に、陰謀にも等しい手段で先生を追放した≫
 資金の援助がないため、研究に時間がかかったり生活苦をともなう。家族や親族の無理解も孤独を深めさせる。 それでも、真実を極めようとすれば更なる孤独が要求される。その孤独の心理に光を当てその陰を深々と描ききっているような作品群であった。
 作品に扱われている、研究内容にも、その学会の当時の雰囲気にも、興味を深めながら読めて楽しい。
 
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