『海を渡った蝶』
2013/01/10(Thu)
 右遠俊郎著 『海を渡った蝶』 を読みました。
 これもみどりさんから頂いた本の箱からの2冊目です。

 著者はこの作品をどのようなスタンスで書き始めるかについて序章で丁寧にそのいきさつを述べています。そのいきさつの斬新さにつられて私の読書熱も高まりました。
 「小説家の書いたウソを書かない自分史」。そのテーマは初恋と失恋です。理解できていなかったそのときの世の状況の資料と、記憶を忠実になぞった作品と理解しました。
なのでこの作品は、史料価値をも充分に備えているともいえる貴重な書物にも思えます。

 昭和19年、9月旅順高に入学。20年6月校則を破っての退学、学生であれば兵役を免れたものを7月7日遼陽の輜重隊に新兵として入隊させられる。
 8月15日の終戦、捕虜となり、あちこち移動させられるうち自分が通った中学校の校門の前を歩かされているとき恩師に出会う。
 捕虜の中から同級生の松川も声をかける、その出会いで情報が松川の父に伝わり二人とも脱走できる。9月の下旬であった。父親との再会も果たす。ソ連軍の日本人への立ち退き命令で12月半ば金州にいた父母弟妹の4人が大連に逃げてきて自分たちにも22年1月17日から引き上げの順番が来る。
 意外なことに、この作品のテーマである妹の級友である初恋の女性に出会うのは、114ページ目から。
 引き上げ順番を決めるため、各戸の困窮状態の程度を正確につかんでおく必要から、地域に残された労組員のオルグが青年の集いを持った。そこで出会うのである。
 芝居をやろうと言うことになり彼が『北帰行』をもとに脚本を書き主役を演じ彼女が相手役を演じた。二人は仲良くなったが彼の引き上げによって別れる。
 岡山に引き上げて、6高の図書館に勤務するようになり、石川県に引き上げた彼女に会いに行き、最終的な彼女の意思で別れる気持ちに決着がつき、誰にも内緒で東大受験を目指して東京に行くところで終わる。
 芝居で演じた宇田博の『北帰行』。この宇田博が、旅順高の4年先輩で、旅順高では、校歌などとともに、この歌の背景が語り継がれていて、作品の複線の役割にもなっている。

 作品中、多感な青年時代に読まれていく本が、私も20歳前後に読んだ本であることに親近感を覚えました。
又、この作品には、男女の関係において、惹かれあう心・心情と、交じり合う肉体との関係に、思ってもみなかったこと(もしかしたら当然のこと)を学んでいく著者の成長記録が精彩を放って私の心を捉えました。

『北帰行』、そうです。この曲です。
 
窓は夜露に濡れて 都既に遠のく
北へ帰る旅人一人 涙流れてやまず

我身入るるに狭き 国を去らんむとすれば
せめて名残の花の小枝 つきぬのぞみの色ぞ

富も名誉も恋も 遠き憧れの日の
あわきのぞみはかなき心 栄光我を去りぬ

建大一高旅高 終われ闇を旅行く
汲めど酔はぬ怨みの苦杯 磋嘆干すに由なし

一人黙して行かん 何を又語るべき
さらば祖国我同胞よ 明日は異境の旅路


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