『那珂川青春期』
2013/08/22(Thu)
 森詠著 『那珂川青春期』 を読みました。

 やはりみどりさんにいただいた本です。

 この小説の主人公大山茂は県立黒磯高校2年生。
 詩人の父親を支えて母親は旅館の仲居をして働いていたが、父親は他に女を作って一緒に蒸発してしまいます。兄は奨学金とアルバイトで東京の外大に進んで寮生活をしているので、市営住宅に母親と二人で暮らしています。
 タイトルの那珂川についてはどこにある川なのかこの年になるまで知りませんでした。栃木県の北、福島との境にある那須岳から茨城県の水戸に流れている川で、小説は那須岳を仰ぐ那珂川の流域、黒磯というところが舞台になっています。
 作者の高校時代をモチーフにしたと思える青春小説で、1960年ころの時代性もよく出ています。男道を極めようとする5人の友情を軸に、番長グループとの戦いや、女子学生とのクリーンな恋愛、戦前を思わせるような教師への反発、わかいころバンカラだった豪快な校長とのふれあい、体育祭での体のぶつかり合い、学園祭とかキャンプ、模試で東京にいって安保反対の学生デモに参加したりと、卒業までの話が次々とすすんでいきます。
 友達である青木が五味川純平の『人間の条件』についての解説をする部分があります。

 ≪「おいおい、これはあくまで小説だぜ。小説は歴史書じゃない。歴史の告発書ではない。似たようなことはあったのだろうけれど、あくまで著者の作った虚構だ。事実ではないぜ。」・・・「嘘だとはいってないよ。著者は、そういう世界や現実をきっと見たのだろう。その迫力は感じる。しかし、著者が描こうとしたのは、そうした苛酷な時代の中を、人間として真摯に生きることがどんなに辛いかだ。その生きにくさを主人公の梶上等兵を通して描いた虚構だ。真実ではあるけれど、事実ではない。小説の読み方を間違えてはいけない。小説はあくまで小説。事実の記事やルポルタージュではない。」≫

 この作品をこのように読んでほしいというメッセージとも受け取れるし、小説一般の書き方・読み方を指南しているようにも思えて大変参考になりました。
 おりしも、今日は仕事が休みで甲子園の高校野球決勝戦でした。彼らの額から流れる汗や涙、1イニング終わるごとテレビから本に目を落としては、読み進んで、作品の最後卒業式で大学に合格して進学する子、初心を貫抜くために浪人を決めた子がいて、本当に青春のエネルギーをいただいた一日でした。
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コメント
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 家人が退職後の旅の途中でしたが、黒磯には一度だけ行きました。
黒磯に近い土地(喜連川という番地でした)に、精神障害者たちが療養の傍ら、農作業やホテル接待などの仕事が出来る、画期的なホテルがありました。家人は20代後半に精神病を発症し、以降今日に到るまで、服薬を続けながら、精神障害者問題に向き合ってきました。
そのホテルの大部分を当事者と家族が運営していましたので、学びの意味もあり、出かけました。とても暑い夏でした。
半分は空想の世界でのことですので、笑われてしまいそうですが、其の時に那須に家を買い、草木に囲まれて暮らせたらいいなぁ~と思いました。
 本を選ぶきっかけの多くは、好みの作家かどうかなのですが、此方の本は、那珂川という川の名や黒磯に惹かれたという、極めて単純なものだったようです。
 あかね様が読んで下さったお蔭で、幾らか内容を思い出しました。文章があまり好きになれなかった覚えがあります。
どのような本に対しても良い点を見出して、自らの栄養にしてしまう姿勢に、いつもながら教えられます。
2013/08/23 22:07  | URL | みどり #-[ 編集]
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 黒磯を訪ねられた昔がおありになったのですね。

 この作品は『一瞬の風になれ』を読んだときのような心持で読めました。中国山地の山深いところで育った私は、作者より8歳年下ですが、作品中に話題になる本を読み、映画を観、歌を聴いていました。とても親しみやすく、わかりやすい作品でした。

 
2013/08/24 11:14  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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