『光抱く友よ』
2013/08/24(Sat)
 高樹のぶこ著 『光抱く友よ』 を読みました。

 やはりみどりさんにいただいた本です。

 この小説の主人公相馬涼子は女子高校生です。担任でアメリカ留学帰りの英語教師の三島良介に思いを寄せていましたが、あるとき、彼が同じクラスの松尾の頬をぶったりして厳しく怒っているのを聞いてしまいました。落第生で学校中の誰からも相手にされていない松尾に叱られた事情を思い切って聞くと、松尾から手紙を書いてくれるよう頼まれます。三島から何度か家庭訪問しても会えない母親に渡すようにと持たされた手紙への返事でした。松尾は母親の千枝になんとか返事を書かせて三島に渡しましたがあまりにも稚拙な文字と文面であったために、松尾が母親に見せないで勝手に小細工したと逆切れされ丸めて投げ出されてしまったための依頼でした。事情を聞くうち涼子は三島先生への想いはすっかり消えて、逆に怒りを感じるようになりました。その怒りを三島先生に自分がぶつけようと松尾に宣言するときつく止められてしまいました。涼子が手紙を書いたことで、三島は一応松尾に理解を示します。
 以来、涼子と松尾はお互いの家を訪ねる仲になります。
 松尾の薄汚い三畳の部屋の天井には、アメリカに帰っていった男の趣味だった木星などの天体の写真が張りつくされていて何かにつかまっていないと吸いあげられて宇宙に飛び出していきそうな気持ちになります。涼子は父親が大学から持ち帰る顕微鏡で取った写真を見ているときと似たような気分になることをはなし、肉眼では見ることのできない世界をおもい人間の無力さを共有します。
 アルコール中毒で精神病院に入院した母親に代わって小さな居酒屋をやりくりしている松尾はいよいよ学校に来なくなりました。訪ねていった涼子は退院してきた母親が、花見客と酔いつぶれて松尾の悪口を言っているのを聞き涼子は松尾がどんなに母親のために辛い思いをしているかを伝えようとして手紙のことをしゃべりそうになりました。そのとき松尾が通りかかり、その場から涼子に知られたくないと堅くしゃべらないように言い置いたことが、半分ばれそうになっていることに気づき母親を連れて涼子にさよならを言って帰っていくのでした。

 作品は芥川賞受賞作品です。読んでいてはっとさせられるところがあります。不幸な生い立ちの女性が生きていくために知らず知らず身につけていく感性を魅力的に描いています。
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コメント
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 高樹のぶ子氏は忘れがたい作家です。
あらゆる場所や風景描写が透明で、美しく、少し形容部分が長すぎると思う時もありました。
それでも、その表現の素晴らしさは、詩人の魂を感じました。
此の本を読み終わった時(私も誰も表現できないような形容詞をつくりだし、流れるような文章を書きたい!)と思っていました
 若い時【細密でリアルな絵画を描く】ように、文章で景色や草木、風の流れまで表現できるようになりたかったのです。
 子どもが生まれ、家人の病気と重なり、いつしか夢は遠ざかってしまいました。
 流麗な文章どころか、固くてキツイ文ばかりです。詩にしても未硝化な文字の羅列ばかり・・・厭になりますが、続けることしかできません。
私の場合、此の本に出てきた筋立てより、全面的に表現に気を取られてしまったことが思い起こされました。
好きな本でしたが、あかね様が読んで下さったことが、とても嬉しいです。
 芥川賞作家も最近は重みが薄らいでしまったかの感がありますが、高樹のぶこ氏は、稀有の才能を持った女性と言えましょうか。同じ本を手にしても、個性の違いで、受け取り方も様々、面白くも楽しく思います。
2013/08/24 22:40  | URL | みどり #-[ 編集]
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 この作品をよく覚えておられるというみどりさんの感想がうかがえて、どきどきします。
 じつは、自然描写はすらすらと読めないでいました。原因はわかりません。ただ、内容ではっとさせられるところに(どの部分だったかとすこし読み返してみましたが・・・そのときメモをしておけばよかったと悔やんでいます)、作者の伝えたいことをこんなにはっとさせながら効果的に表現できているところが読みながら、すごいなと思いました。
 内容では、私たちが子どもとかかわるとき、子どもたちのうわべだけを見てかかわっていることがほとんどなので、子どもの背景を描いたものには反省も含めて注意が向き、そこのところが非常に印象に残る傾向があるのかもしれません。 しかし、自分の子どもの頃を思い出すとき、教師がクラスの他の子どもを叱ったりしているのを見たとき、教師の本性が見えてがっかりすることはよくありましたね。まさしく百年の恋も冷めるというのはよくわかります。そして、よく我慢して生活しているよねと思える人に何かしら引かれていく世間知らずの子どもの気持ちもよくわかります。そんなところを昇華させて描いているのがすごいと思いました。
 自然描写などが透明感があっていいなと思った作品を思い出しました。小川洋子です。たぶんずっと以前ブログに記録しているような気がします。
2013/08/25 18:32  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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