『緑なす山河』上・下
2014/02/11(Tue)
 吉開那津子著 『緑なす山河』上・下 を読みました。
 この本もみどりさんからいただきました。
 この本は大作で、とても平明な文章で、終戦直後から昭和50年ころまでの千葉県の貧しい農家が舞台になっています。
 この物語の主人公である三男の君兵が終戦後に復員してきたところから物語が始まります。上の兄二人はまだ復員しておらず、生死もわかりません。復員して帰ったとき、父母と弟が家を守っていてくれて、自分の復員を喜んでくれますが、しばらくすると、弟はそれまで跡取りとして大事にしてくれていた父母が、兄の復員によって次第に自分に邪険になっていくことに気づいていきます。それに気づいた君兵も厳しい農作業に耐えながら兄たちの復員を心待ちにしていたにもかかわらず、復員によっていつ自分も同じ目にあうかもしれない不安を感じるようになります。かなり豊かな農家に嫁いでいる姉の家では長男が戦死しているので、姉と次男が夫婦になるのが 当時では一般的でしたが、もともと二男は勉強をして身を立てるよう考えていたので、百姓はやりたくないと、兄嫁のおなかに子どもを宿したまま家出をしてしまいます。このあたりを読んでいくと、日本全国終戦後の農家の問題は同じだったのではないかと昭和24年に、農村に生まれた私は子供時代の周囲を思い起こしていました。
 次に君兵の家は小作人でしたが、農地解放の問題が起こってきます。この農地解放が推し進められていく自作農、小作農、地主それぞれにおこる動揺がリアルに描かれています。GHQの強制力があればこその開放であったことを改めて感じます。それまで農地解放によって、百姓はすべて自作農となり、貧富の差がなくなったこと、あるいは耕作へのモチベーションがあがって戦後の食糧難が改善されたといった表現にしか出会っていなかったので、多くの兵隊が子沢山の農家の出身であり、口減らしに軍隊に志願さえする農村の実態を見て、GHQが農村の軍国主義をなくするために農地解放をすすめたといううわさが広まっていた実態には驚きました。
 以後、やっと食べていけるようになった農家が、教育費への出費、家庭の電化、農作業の機械化への出費に翻弄される姿が描かれていきます。
 私の読書体験の中でこれほどひたすら農家の生活をとうとうと書いた作品があったかと思います。あったとすれば、小屋の中で一人で準備をしてお産をするシーンが印象的で、高校生の夏休みに読んだことしか覚えていない、パール・バックの『大地』くらいしか思い当たらないように思えます。昨日、職場研修で一緒になった友人が、千葉の貧農といえば三里塚の話は出てこなかったのかと問いに、「あっ!」と驚きました。いよいよ物語の最後、三里塚の飛行場建設の話が持ち上がり、君兵の長男が、それに反対する集会へ出かけるようになり共産党に入ったことを知った君兵は、学校での成績もよいことを誇りにも思っていた長男に腹を立て、悩み苦しみあきらめていく姿を描いていることを思い出しました。息子は父親に向かって「・・・・、そうだろう、皆、百姓なんて阿保がやることだ、と思ってる。百姓なんて虫螻(ムシケラ)みたいなもんだと思ってる。そうじゃなきゃ、百姓が承知も何もしてねえのに、その土地とりあげて飛行場造ろうなんて考えねえだろう」「・・・だけっと俺、百姓が食うものつくらなかったら、どんなにこまるかってことを都会の奴等に分からしてやりてえんだ・・・」と訴えかけます。そのすぐあと、君兵は元の地主の家に年始の挨拶に行ってそのまま意識を失って入院。退院しても体の自由を失ってしまい物語りは終わります。この作品の余韻をどう受け止めていくべきか。著者の意図が何なのか。今日一日、実家の兄夫婦が来たり、夫の義理の妹が着たりしてわいわいにぎやかで興奮した頭で考えています。


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コメント
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 長い物語を読み通すのがたいへんでしたね。よくぞ、投げ出さずお読み下さいました。
作者が一番にいいたかったことは、戦前も戦後も農村が都会より一段低く扱われている不合理に、視線を投げかけたかったのではないかと思いました。全体の流れをみても、農村は現在も過疎に取り残されたり、せっかく得た農地を貧しい農家が手放し、機械化できるような大農が段々増えていると聞きました。
政府は小農や貧農を切り捨て、出来たら農業の産業化を狙っているように思います。
 私の母方の従妹は茨城で、かなりの土地を持っていましたが、数年前に訪れますと重い病気で通院の身。3人の子を教育する為に200坪程の土地を近くの人に売っています。家族が耕すには充分の畑が残っていましたが、農業を受け継ぐ後継者がいないことも原因でした。夫君はいわゆる婿どのです。
TPPで小規模農家はますます疲弊し、生き残れるのは大農となり、機械化を進められる農家でしょう。
 吉開那津子氏は「日本民主主義文学同盟」が名を改めーー文学会となった後に役員として頑張っているようですが、私はあまりに理屈っぽいような文章の書き方が好きになれずにしまいました。
今後、日本の農村がどうなるかの関心は保っております。
 亡き母が思い出話に戦後の事を語り遺してくれましたが、1945年の終戦頃には農村は米を作っても供出制度でがんじがらめ、強制的に差し出すようにされたそうです。
沖縄も、成田も、三里塚も基地や飛行場に奪われ、農民の悔しさ無念さは遠い昔の話ではありませんでしたね。
 また時間がとれましたら、あかね様の深い洞察をお聞かせ下さい。

2014/02/12 18:44  | URL | みどり #-[ 編集]
- Re: タイトルなし -
>  この家族がどうにか借金をしないで最低限の生活ができた裏に二人の兄の遺族年金がありました。父親が亡くなった時点で破綻しそのとき二人の子どもが小学生です。最低の衣食住だけならどうにかできるでしょうが現代の文明からは完全に疎外されてしまいます。しかし、農地解放によっておなじく7反の土地を得た隣の家はずいぶん豊かです。農業経営はよりマルチな人間でなければやっていけないと思います。ほかの企業が大学卒業者であるのに農業をやるには学問は要らないと考えるところが間違っていると思います。それ以上の科学力・技術力・経営力などなどが必要に思えます。そんなことを考えると、とにかく今のような世襲でやっていくには限界があるようにも見えますが・・・・・・。
2014/02/12 21:20  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
- みどりさんへ -
 この本を読んで11日、懐かしくなって実家の兄夫婦に電話しましたら、広島に出る用事があるからと、立ち寄ってくれました。夫が1月28日からオーブンレンジを新しく買って毎日バンドケーキを焼いて最高のできに挑戦していますので早速食べてもらいどうしたらもう少しふっくらと焼くことができるかと思っていると話すと、即座に兄が生地を1日寝かせるといいと言い、姉もそのとおりだといいました。生地を寝かせるという発想は私たちには浮かびませんでした。今朝初めて1日寝かせた生地を焼いたところふっくら焼きあがり感動しました。兄夫婦は実家で父を介護するのに、田舎ではおいしいケーキが手に入らないのでケーキの大好きな父のためにケーキ作りの研究には誰にも引けをとらないといった感じでした。私が秋に次々頂く柿の保存のための研究をしたことを話すとそれについても、姉と母とで研究して私のあらゆる失敗もすべて経験済みのようでした。柿は果物のなかでも極端に糖度が高いので、砂糖漬というわけにいかないのが難点で、結局干し柿か羊羹しかないかと思っていましたら、いちょう切りにしてラッキョウ酢付けにして蕪や蟹缶などで和えたらおいしいと教えてくれました。昨年6億円売り上げたという新しくできた道の駅で自分たちもたくさん売り上げをあげている姉が、夫にこれでも道の駅で売っても十分売れるよといってもらっていました。私は夫の母親に食事のことで研究をしたことはなく、むしろ、味見をしてもらって料理の最後の仕上げへのコツを教わっただけでした。改めて兄夫婦に深い感謝で涙が出そうでした。
 この本に出会ったおかげで、兄夫婦のこのような一面に出会えました。
 改めてみどりさんに感謝です。
 上下あわせて6000円以上もしているので更に更に感謝です。
2014/02/13 09:25  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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あかね様
 兄上様ご夫妻の話を伺い胸に浸みました。
私にも良き兄二人がおりました。やはり色々アドバイスしてくれたことなどを思い出しました。長兄は54才の誕生日を迎える前に肝臓ガンなど患い亡くなったのですが、理髪師でしたので若い時の私の顔を剃ってくれたりしました。口が大きい私は口紅を小さめに塗っていたのですが、10代の頃でしたか「自分のありのままでいいんだよ。口が大きかったら大きいままに化粧すればいいさ」等と教えられ、その後一貫して兄の言うようにしています。
 心優しい兄上様ご夫妻お元気そうで何よりでした。父上のために美味しいバウンドケーキをつくり続けていたとは、あかね様にとっても本当に嬉しい事でしたね。
 私には行き来する実家はなくなりましたが、育ってきた家や家族はいつまでも恋しいものです。茨城の母方の親戚も母が長女で、みな既に旅立ち、高齢の従兄や少し年下の従妹がいますが、まったく会いに行けません。
余計なことですが、出来るだけ多くご兄弟と行き来なさいますよう、お勧め致します。
 あまり喜んでは頂けないような本・・・と思いましたのに、まっすぐに受け止め、読み切っての読後感、とても嬉しく思います。
2014/02/13 18:02  | URL | みどり #-[ 編集]
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