『生まれ出づる悩み』
2014/06/14(Sat)
 有島武郎著 『生まれ出づる悩み』 を読みました。
 先に読んだ『小さき者へ』に引き続き、もう一作寄り道という気持ちでこの『生まれ出づる悩み』を読みました。
 ある日、自分の書いた絵を見せにきた若者がいました。その絵のできに、一見はっとさせられたものの、その若者の不逞にみえた表情に、素直な感想を言えずにいましたが気になっていました。
 その後10年くらいして、粗末な用紙にスケッチされた絵が十枚ばかり、魚くさい新聞紙に丁寧に包まれ送られてきます。その絵に深く感動をして、気になっていただけに、その若者と逢うことにしました。会って、彼のそれからいままでの10年間の話を聞きます。
 彼は学校を中退して郷里に帰り、漁師をしている父と兄の仕事を助けることにします。死と向き合うことを余儀なくされる苛酷な重労働のぎりぎりの生活のなかで、一人ぼっちで絵との世界で悩み苦しむ青年の話を聞き、

≪君、君はこんな私の自分勝手な想像を、私が文学者であるということから許してくれるだろうか。私の想像は後から後から引き続いて湧いてくる。それがあたっていようがあたっていまいが、君は私がこうして筆取るその目論見に悪意のないことだけは信じてくれるだろう。そして無邪気な微笑をもって、私の唯一の生命である空想が勝手しだいに育っていくのを見守っていてくれるだろう。私はそれを頼ってさらに書き続けていく。≫

と、この漁師の苦しい生活と絵を描きたいとの思い、書いた絵が果たしてものになるかどうかの葛藤を書きます。そして、それはあえて読者に、自分の文学者として値打ちを問うているよに感じさせます。

 ≪君よ!!
 この上君の内部生活を忖度(ソンタク)したり揣摩(シマ)したりするのは僕のなしうるところではない。それは不可能であるばかりでなく、君をけがすと同時に僕自身をけがすことだ。・・・・ともかく君はかかる内部の葛藤の激しさに堪えかねて、去年の十月にあのスケッチ帖と率直な手紙とを僕に送ってよこしたのだ。・・・・君とお会いした時も、君のような人が芸術の捧誓者となってくれるのをどれほど望んだろう。けれども僕の喉まで出そうになることばを強いて抑えて、すべてを擲って芸術家になったらいいだろうとは君に勧めなかった。それを君に勧めるものは君自身ばかりだ。君がただ独りで忍ばなければならない煩悶―それは痛ましい陣痛の苦しみであるとはいえ、それは君自身の苦しみ、君自身で癒さなければならぬ苦しみだ。≫
とあり、これが、表題の『生まれ出る悩み』だということが、わかってきました。自分は芸術に向かうよう発露されるが、はたしてその作品が芸術品として世間が認めてくれるかどうか、の葛藤を真摯に描いています。
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