『〈時〉をつなぐ言葉』 ラフカディオ・ハーンの 再話文学 (4)
2014/09/05(Fri)
 牧野陽子著 『〈時〉をつなぐ言葉』 ラフカディオ・ハーンの 再話文学 第4章水鏡の中の〈顔〉―「茶碗の中」 を読みました。
 まず、いぜんインターネットから著者の「茶碗の中」にかんするレポートを入手していましので、あるいは同じものではないかという思いで探し出して、比較しながら読みました。
 そのレポートでは、少しハーンの作品に対する解説が冒頭に加えられてあるだけで、あとは本の内容と一緒でした。この貴重な本は、図書館で借りていることもあって傷めないよう、気を使って読んでいたのですが、自前の印刷物があったことは、家事の合間で、集中して読むことのできない私にとっては本当に助かりました。このレポートについては、このブログで6月8日付けの記事として、記入済みなのでそれを以下に再度写し取ります。
 ≪牧野陽子さんの「ラフカディオ・ハーン『茶碗の中』について」では、その論の進め方のうまさに惚れ惚れして読みました。
 ハーンが「茶碗の中」という作品を書き上げるのに参考にした、明治24年に書かれた『新著聞集』巻五第十奇怪編という原話との比較はもちろんのこと、彼がこの作品を枕にして、自分なりの物語に変えていった彼のこの作品への真意がみごとに解説されています。
 当時通俗話によくあった、日本の江戸時代、とくにその初期の武士社会ではかなりおおっぴらに行われていたとされている「衆道」によっておこる怪奇物語の主題を、なんと「十九世紀に入ってから特に多く登場するようになったドッペルゲンガー、すなわち主人公がもう一人の自分と出会うという分身の主題」に変えたという説明を、ワクワクするような気持ちで読みました。
 そのことを、翻訳者平井呈一氏が理解していたかどうかについては触れてありません。
 昭和39年に、小林正樹監督が製作した『茶碗の中』は、どちらかというと原話に近く、元来、途中で突然終わってしまうこの作品に結末をつけて脚色をしています。
 さらに、昭和59年に、尻切れで終わってしまう作品であることを枕にした『八雲が殺した』という映画を製作した赤江漠氏は、この作品を「未完にしたのは、八雲自身ではないか!原話の花や実に気づかず、それをむしりとっておきながら!・・・・字数が多い割に、・・・物語の完成度は数等劣って・・・・通俗話の原話にはるかに及ばない不出来の作になってしまった。」という痛烈な批判をしています。これら、作品への未消化や批判には、平井呈一氏の翻訳の齟齬が原因であったことを、その箇所を断定してきっちり指摘しておられました。
 世の東西の倫理観の違いへのハーンの気遣いや、原話から引き出す想像性の豊かさや、文学への基礎的理解のちがいが丁寧にわかりやすく伝わってきました。≫
 このレポートを読んだ当日に、浅尾敦則氏の講演でこれらの映画を見せていただき、講師の話も聞きました。
 このたびの読書では、このようなことを踏まえたうえで、さらに核心に近づけたかもしれません。
 ハーンが『新著聞集』巻五第十奇怪編という原話を読んだとき、何が印象に残ったか。
 何かの話を聞いたとき、自分の体験のなかにある出来事と重ねて、その部分が印象にのこりますが、彼がこの作品を読んで印象に残ったのは、この作品の最後、話が途切れてしまっていることだとおもrます。「えっ・・・・。それから・・?。これで終わり?」という印象。
 ≪何処か古い塔の薄暗い螺旋階段を昇ってみると、何もない突き当りの暗闇のただなかに蜘蛛の巣がかかっているだけだったということはないだろうか。あるいは、海岸の切り立った断崖ぞいの道を辿っていき、岩角を曲がった途端、何もない絶壁の淵に立っていたというようなことはあるだろうか。そういった経験の持つ感情的価値がいかに大きいかは―文学的観点からいえば―その時に味わった感覚の強烈さとその感覚が残す記憶の鮮やかさが何より雄弁に物語るものである。
 さて日本の古い物語の本の中には、不思議にも、ほとんど同じような感情的効果を作品の断片がいくつか残されている。・・・・・その典型的な例を一つここにあげよう。≫
 と、物語は始まります。著者の解説によって、今回は、話が途切れてしまうことによる恐怖、不気味さ、に焦点を当てて作品を読み込んでみることができました。
 自分の経験のなかにある恐怖と、語り継がれてきた話の中にある恐怖、これを一体化させることで、文学作品に普遍的な価値を与えることができることへの試みの作品として味わうことができました。。


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コメント
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 ここ数日精力的に読後感をまとめていらっしゃるので、驚きをも抱きながら読ませて頂きました。とても及びません。
あかね様の読後感が、とても面白く、ついつい惹きこまれてしまいました。
9月1日から5日迄、遡って読ませていただきました。ありがとうございます。
 本日は早朝から川崎市の健康福祉チャリテイで友人の踊りを観てきました。間に30分脳神経科の医師による講演が入り、認知症のことや、脳の劣化を防ぐための日常の心得など、長く臨床に携わっている医師らしく、具体的で解りやすい話でした。
私の場合、運動不足が心配です。この2週間踊りの稽古を休み、通院が多かった為、少々疲労してしまいました。(運動しない言い訳なのですあ・・・)
 来週からは日が沈んだ後に、団地1周散歩を再開する気持ちになりました。
あかね様は足腰お丈夫そうですが、職場通いが減っているようですから、やはり運動にも重きを置くといいと思います。
本日の講演に、しみじみ我が身を省みた次第です。
2014/09/06 18:53  | URL | みどり #-[ 編集]
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「茶碗の中」など調べようとして偶然見つけた情報です。
9/15(火)13:05〜14:15 NHKア-カイブス「再発見 小泉八雲の世界」があるそうです。
これは一度放送されたものか、新しいものかよくわかりません。
2014/09/06 21:55  | URL | 花てぼ #ZjTFAI5c[ 編集]
- みどりさんへ -
このところ、がんばってみました。
図書館で借りた本でしたので、期限が過ぎたかもしれないと、一生懸命読みました。読み終えることができないまま今日図書館にいったらあっさり、「延期いいですよ。」といっていただきました。でも、明日からは読めるかどうか不安です。
 昨日座敷に土砂が入り込んだうちの手伝いに夫婦で行きました。今日は私は児童館で働き、夫は今日も手伝いに行きました。工具が何がいるか考えては買い物にいったりして、炊き込みご飯を入れたタッパー一つ持って出かけました。明日は夫婦で行くつもりです。しばらく行く気持ちでいるのですが雨の日がほとんどなのでどうなるかわかりません。
 みどりさんも、散歩がんばってください。
2014/09/06 22:50  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
- 花てぼさんへ -
 情報ありがとうございます。
 忘れず、必ず録画して見ます。
2014/09/06 22:53  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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