『西方の人』
2015/06/15(Mon)

 集英社発行の『日本文学全集28芥川龍之介』より、芥川龍之介著 『西方の人』 を読みました。
 ここでいう西方の人とは、キリストのことです。東方の人とは、仏陀のことです。
ここでは、西方の人というタイトルにそって、キリストについて1から36まで書いています。
 キリストは人の子であり、彼のような天才は古今東西にあまたいたが、キリストは私生児でマリアが受胎したといって、生まれたゆえに、そして、ボヘミアンであり、ジャーナリストであったために、悲惨な人生を送らなければならなかったと述べています。
 この全集の最後の「作家と作品」のなかに、
《悲痛の名作『西方の人』が発表されたとき、芥川が死を創ることを決意した最初にして最後の作品であろうとは誰にもわからなかったでしょう。『西方の人』を書いたときクリストは、もはや芥川自身でした。35歳の芥川は、自分の一生も一段落のついたことを感じないわけにはいかず、下界の人生に懐かしさを感じながらも、自分の道はいやでもおうでも人気のない天に向かっているのだと自身にいい聞かせねばなりませんでした。
「我々は唯茫々とした人生の中にたたずんでいる。我々に平和を与えるものは眠りの外にある訳はない。」と書いた芥川は、「人の子は枕する所なし」といったクリストに溶け込んでいます。
「天井から地上に登るために無残にも折れた梯子」を「薄暗い空から叩きつける土砂降りの雨の中に」残して永遠の眠りに入ることだけが、唯一の勝利であることを、芥川は『西方の人』によって宣言しました。
 クリストの受難は、「正に彼の悲劇であったろう」。芥川の死を創り出すことも、悲劇であるのに違いありません。が、クリストのように、彼もまた、「この悲劇の為に永久に若々しい顔をしている」ことができるのだと、芥川は誇らかに考えたのです。
「クリストも亦あらゆるクリストたちのようにいつも未来を夢みていた超阿保だった。若し超人という言葉に対して超阿保という言葉を造るとすれば」と『続西方の人』に書いた芥川は、自身、超阿保の一人であることを、クリストを通路に認めたのでした。
 超阿保となる虚栄心――これが『西方の人』の示す戦勝の盾でしょう。何における戦勝なのか、いうまでもなく、彼の文学的戦勝です。この戦勝のもとで、芥川は人間の達し得る最高の静けさをこの世で知ることができたのです。
 そして、この最高の静けさを、死によって裸形にしようとしたのが、芥川の自殺でした。》
 と著者の進藤純孝氏は述べられています。
 いよいよ作品の最後の37になって「東方の人」として仏陀をあげ「無何有の郷」と、「天国」が彼のなかでは分かち難いことを、我々に示していると感じます。
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コメント
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 「西方の人」と「侏儒の言葉」ともに岩波文庫出版、文庫本が私の中学時代に於ける最高の愛読書でした。明日への希望が何一つ見出せない14、5歳でした。生きていることが厭で辛くて、それでも自殺できない苦しみが三年以上続き、そんなことから芥川へ傾斜していたように思い返します。背景にはここには書けないような家庭の貧困と自分の病がありました。進学もできない、就職もできない体の弱い15才にとっては進むべき道など何処にもなかったのです。
 すべて遙か遠い物語になりました。
芥川から太宰治へ移り、そこから更に社会の改革を願いながら小林多喜二へと変革されて行った十代と其の後の人生が、今ふつふつと蘇ります。女の一生、これまであまり振り返らず来てしまいましたが、不意に虚をつかれ立ち止まる時があります。残された人生をどう有意義に生きることが出来るのか、小児のような愚かしさは逃れたいと思いますが、あまり利口な生き方はして来なかったと言えます。一貫してお金に縁のない暮らしは、自ら選んだとも言えるのですが、それにしても無駄の多い人生だったようにも思えます。
「つばめ劇場」にもコメントさせて頂きました。
少しの間ですが伺えない日が続いておりました。
こちらへ伺う度に刺激を受けます。最近また読書が進まない私なのですが、がんばろうとする気持ちになれます。
2015/06/17 18:39  | URL | みどり #-[ 編集]
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彼のほとんどの作品が短編なので、自殺の原因に着いて、あるいは宗教観について、創作活動についてなど、興味があったので、このほかにもついついいろいろ読みました。
 みどりさんの人生のなかにも、いろいろな場面があったことを語っていただきましたが、今現在、姉妹の方々や、娘さんたち、花てぼさんや、志村さんなどとの交流があり、思いを短歌に託しておられる姿は、生きていてよかったの人生ですね。
 わたしの場合は今現在まで、好きな本が読めて、食事のできなかった日はない人生でしたので、逆にこれから大変なことが起きても、我慢しようと思っています。
2015/06/17 21:27  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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