『いのちは燃える』
2015/06/20(Sat)
 1973年偕成社発行 石垣綾子著 『いのちは燃える』 を読みました。
 みどりさんに送っていただいた本です。
 石垣綾子という著名な著者のことは全く知りませんでした。
 彼女は明治36年東京の早稲田にて厳格な物理教育者の田中三四郎の次女として生まれます。夏目漱石が近所に住んでいて、漱石はこの田中三四郎宅の表札を見て『三四郎』という小説を書いたといいます。4歳のとき母親が病気で亡くなり、23歳で親族の反対を押し切り、姉が夫婦で日本大使館に勤務のためアメリカに赴任するのに便乗してアメリカのワシントンへ渡ります。
 教会の牧師の紹介でニューヨークペンシルベニアのYMCA職業婦人寮を皮切りに、アルバイトをやりながらコロンビア大学で学び始めます。やがて、早稲田大学の講師であった猪俣津南雄先生からもらっていた紹介状を持ってグリーニッチ・ビレッジと呼ばれる芸術家の街で10歳年上の石垣栄太郎を訪ね、彼の人間的平等、民族の平等を訴えかけている迫力ある絵に引かれ、彼に惹かれるようになり結婚をします。そして、このビレッジに生活する多くの作家や、評論家、画家、ジャーナリスト、ダンサーなどの芸術家の反逆精神の影響も受け、反戦運動家になってゆきます。
 全世界に影響を与えた恐慌で経済的なダメージを受けたときには、どのような仕事でも片っ端からやり、生活が少し落ち着いてきたころから好きなアメリカ小説の翻訳などをして日本の雑誌に送って掲載されたりもするようになります。
 運動のなかでも、鉄くずが日本に売られて凶器になるため、それを阻止するためのアピールをやり始めます。日中戦争の間は“聖戦”という名で侵略をつづける日本の実態を、アメリカ人の広い層に訴えるために、講演や文筆活動で、日本人民の敵は中国ではなくて、日本軍部であることを伝えその戦力を弱めるためのアメリカ人の協力を求めていきます。そのような活動を通して、のち中国の国連代表の副主席にもなった唐明照(トンミンシャヲ)やパール・バックなどとも交流を持つようになります。
 そして、太平洋戦争になると、日本向けの短波放送で故国日本のひとびとに反戦を訴え、またそれをきっかけに反戦文章を書くようになり、さらにアメリカ政府のもとで働くようになります。そのことで、リアルタイムで、戦力、物資とも、到底日本に勝ち目がないのに、降伏しない日本の、死に物狂いで殺しあう戦況や、庶民が置かれている状況、戦地で日本兵が、病気や怪我や飢餓で置き去りにされている状況を知ることとなります。戦地での日本兵の心持などについても、アメリカ兵が持ち帰った日本兵の手帳や写真などでしり、胸を痛めます。
 このように、中国に加担して戦ったアメリカでは、終戦になりそれまでパール・バックの『大地』や、林語堂(リンユータン)の『わが国民、わが国土』が広く読まれて、中国に対する差別意識も薄れていたのに、中国革命が成立した共産主義中国は再び憎しみの的となっていきます。この、中国革命を支援したアグネス・スメドレーとは生涯の友だちであった石垣夫婦は以後、政府から度重なる尋問を受けるようになり、朝鮮戦争のただなかに日本に帰国します。以後のアメリカは、朝鮮戦争やベトナム戦争を通して、ファシズムに転落したとの思いがつづられ、さらに日本の帝国主義が周辺諸国に犯した重罪について、考えを深めずにいる日本も、再びファシズムに堕落する危険性があると憂えています。

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コメント
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 気持ちの疲れる本だと思いました。
此の本は少しも面白くないと思いながら、お送りしてしまいごめんなさい。反省しています。
自分が読み終えた時、その時の感動や感慨をお裾分けしたくなる・・・このような場合でしたら、あかね様にも愉しんで頂けたと思うのです。今回、読後感を纏めるのも面倒なことだったと思います。お疲れでしたでしょうね。
 最近これぞと思うような著書に巡り合えず、又差し上げたい本は古びています。夏までに整理するつもりですが、雑多な用事で捗りません。
暑さに向かう折、どうぞ気長に元気でお過ごし下さいますよう、心から念じております。
2015/06/21 18:06  | URL | みどり #-[ 編集]
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 この石垣綾子氏のような立ち位置で、太平洋戦争を経験した人の話は、初めてのような気がしています。太平洋戦争や、当時の満州界隈の中国の状況についての書き物はよく目にしますが、戦時中から中華民国が成立するまでの中国全体の動きなど、俯瞰的に見ることができたのは初めてで大変参考になりました。今日の志村さんのブログにアメリカ同盟国の支配層の利益のための戦争について書かれていますが、この俯瞰図から見るとやはり、太平洋戦争も、この論理の戦争であったことがよくわかります。あれだけ、帝国主義の日本について批判していても、結局、中国が共産主義になったとたん敵対するところを見ると一目瞭然です。勿論だからといって、日本のやり方がよかったなどとは思いませんが、・・・。この本は、そういった意味で、私にとって、太平洋戦争の意味を見直させてくれたように思いました。実はこういった感想を一度書いてみたのですが、ずっと後になって読み返したとき、どんな本だったかわかるほうがいいと思って始めっから書き直しました。
 というわけで、みどりさんに感謝してました。
 ありがとうございます。
2015/06/21 20:33  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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