『井伏鱒二聴聞』
2015/11/25(Wed)
 河盛好蔵著 『井伏鱒二聴聞』 を読みました。
 挿画の柚子の絵がとてもいいので、調べると奥村土牛の作でした。
 挿画に負けず劣らず、一気に読んでしまうとてもいい作品でした。
 以前棲んでいた家の近所の友達が貸してくれました。
  「井伏鱒二はいいよね。ドリトル先生物がよかったね」といって貸してくれたのでしたが、わたしはドリトル先生を読んだことがありませんでしたし、彼の訳とは知りませんでした。
 たしかに、この聴聞のなかにも、「ドリトル先生」ききがき、と題して昭和36年11月『図書』に掲載されたエッセイの収録がありました。聞き覚えのある石井桃子さんが、日本にはろくな子どもの読物がないので、児童書の出版を・・と最初に選んだのが『ドリトル先生アフリカゆき』で石井さんと訳して、評判になって次の『航海記』を出すことになり、翻訳を頼まれたけど3分の1ばかり訳したときに戦争が始まって徴用され、あとほかの人が訳したとの逸話がありました。
 井伏鱒二といえばわたしにとっては『神屋宗湛の残した日記』です。井伏鱒二を60代になって、ひさしぶりに読んだということもありますが、文学的な評価というより、神屋宗湛を知ったことでずいぶん歴史に興味が広がったからです。先日もハゼのことを調べていて、ハゼの日本への渡来は安土桃山時代末で、貿易商人神屋宗湛や島井宗室らによって中国南部から種子が輸入されロウソクの蝋を採取する目的で栽培されたとあり、茶人としてだけでなく貿易商としての活躍の一面を知ってひとりでこっそりよろこんだのでした。
 この『井伏鱒二聴聞』は、昭和30年代から、60年代までに、河盛好蔵が井伏鱒二と対談したもの、あるいは彼や彼の作品について述べたものが15編収録されています。昭和8年頃からの東京での文学界のようすを懐かしく思い出して語ったものが多く、これらのことについてなんとなく雰囲気が伝わってきそうと感じるのは、わたしたち世代までではないかと思いながら、レトロな感じで読みます。
 翻訳者や翻訳作品についての対談では、新潮社の社長であった佐藤義亮の、元本とすこし違っていても、わかる文章に翻訳するという考え方によって、読者によく読まれて売れ行きを伸ばした経緯が語られているところは、興味深く読みました。当時、50巻の世界文学全集がよく売れたとのエピソードでは、昭和42年頃、わたしが始めて50巻の全集物を広島の本通りの古本屋「アカデミー」で5千円買って、数年後値上がりしたのか、やはり「アカデミー」で同額の5千円で買い取ってくれたのがその全集ではなかったかと思われ、翻訳者のことも知らず無心で読んだ頃を懐かしく思い出したのでした。
 また、今読みかけている集英社の日本文学全集の小沼丹による「作家と作品」は、ほとんど、この本が底本になっていることもわかりました。

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コメント
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 河盛好蔵著『井伏鱒二聴聞』井伏氏の著書そのものを読んでいなくても、お二人の豊富な知識と経験の土台の上に語られる対話は、色々学ぶ処が多い事とお察します。奥村土牛の挿絵つきとは贅沢な本ですね。私も読んでみたくなりました。書かれ触れられている様々なところから、あかね様ご自身の思い出などが繋がり広がってゆく楽しさと満足感が、此方にも伝わりました。
このところ落ち着いて本が読めない情況でしたが、いつも此方を拝読しては本への興味を再燃させています。
 こちらは雨降り続きです。一段と寒さが募ります。お互い悪性の風邪などに罹らないように致しましょう。 
2015/11/26 06:42  | URL | みどり #-[ 編集]
- みどりさんへ -
わたしも、読めないし、読んでも書けないときがこのところよく有ります。
 この本は、装丁も良くてとてもいい本でした。なんといってもお互い、明治・大正・昭和・平成を生きた人ですから おもみもあります。
 ほかの作家の生原稿を読み、その作家のかきなおした部分などから、文章に対する感覚のようなものを学んでいく場面の話は、とても勉強になりました。わたくしなどは、自分への記憶だからと、たいして読み直しもせずにブログにあげてしまいますが、やはり、後日読み返して直すことが度々です。でも少し安心しました。井伏鱒二などは、一つの作品が、本になって重なって出版されるごとに書き直しているのではないかと思えるくらい書き直しているようです。

 急に寒くなりましたね。
 みどりさんもお体を大事になさってください。
2015/11/26 15:06  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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