『遥拝隊長』
2015/11/27(Fri)
 井伏鱒二著 「遥拝隊長」 『走れメロス・山椒魚』講談社(少年少女日本文学館全30巻中第12巻)1991年第12刷発行収録 を読みました。
 これは、夏のころ、Mさんにいただいた本です。
 井伏鱒二本人から提供を受けたという11枚の写真が掲載されています。
 ほかにも我が家にこの作品が収録された本はありそうですが、読みやすい大きな活字の本ですし、ユニークな挿絵まであるのでこれに決めました。いちいち説明が文中にまであるので、かえって読みにくいと思える部分もありましたが、できるだけそれも読んでみました。表現の部分で判らないところがあって、ほかの本と照らし合わせてみましたが、それも同じ表現で解説もありません。その当時の言い回しなのだと思うことにします。
 改めてこの作品を読んでみますと、大笑いしながらも、戦争の姿とそれへの思いがひしひしと伝わってきます。昭和26年の作品だということですが、このような景色は日本全国に多々あったのではないかとこのたび思いました。夫に話すと、自分の小学校界隈にも「日の丸おじさん」と言われている戦争で頭がおかしくなった人がいて、学校に日の丸を掲げていないといって怒ってくるので、校長先生が謝り、言われたときだけ日の丸の旗をかかげておられたそうです。その人の子どもはかわいそうだったと話します。我が家でも、家が新しく立て替えられたとき、泊り込みで手伝いに着ておられた人がやはりそうでした。発作を起こして人を困らせるというようなことはありませんでしたが、朝、登校時わたしを迎えにきた友達が待つ間の庭でのそのおじさんの様子や会話の話をして笑っていました。わたしが学校から帰ると、ちょうど庭に西日が当たっているのですが、洗濯物全部を裏返しておられ「今から反対側を乾かします」とがんばっておられ、やっぱりずいぶんおかしいのだなと思ったことでした。しかし、この作品にもあるように、人々は暮らしの中で、彼らをなだめ、受け入れることで、戦争の傷跡を癒し、平穏に暮らしていく知恵を身につけていたのだとこの作品によって思います。
 解説は磯貝英夫でこのように思わせられるよい解説でした。磯貝英夫とはどこかで??と考えて、思い出しました。わたしの国文学科でのテキストでした。当時はこのテキストを読む暇がありませんでした。担当のI先生が広島大学の磯貝先生へのお付き合いで、教科書として全学生に買わせたのかなくらいにしか思っていませんでした。この月に入ってからの読書で、このように古い本をめくってみたいと思ったとき、じつは、古い家をハウマッチで、お任せして崩してもらったとき、本箱一つ分くらいをそのまま、多くの本ごと失ったことに気がつきました。岩波の文庫本ですが、岩佐正先生に直接いただいた署名入りの岩佐正校注の北畠親房の『神皇正統記』もありません。考えてみると、あれもないこれもないと、心の中をも秋風が吹きぬけていく心持がしてきました。
 最後に「昔のこと」という小沼丹のエッセイが収録されています。このエッセイが、自分自身が交流があった井伏鱒二と、太宰治のエピソードが伸びやかに描かれていて、この人のエッセイも味があっていいなと思いました。


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