『花いちもんめ』
2016/09/02(Fri)
 石牟礼道子著 『花いちもんめ』 を読みました。
 30日・31日、この『花いちもんめ』と、若松英輔著 100分de名著『石牟礼道子 苦海浄土』を2冊続けてほとんど寝ないで読みました。

 朝日新聞に平成11年5月2日より17年3月20日までの間に連載された57のエッセイを再構成し加筆したとのことです。
 石牟礼道子は初めて読んだのですが、出会ったものに、暖かい視線をむけ、慈愛で包み込むような作品でした。たとえば、
 《・・・・高学年になると一斉に窓拭きの日があった。低学年であった私は、それがたいそう位の高い掃除に見えた。水俣町立第二小学校といった。こことは別に思い出されるのは、教師になって二度目の赴任先、山里の葛渡小学校である。終戦後でわたしは十九になっていた。・・・・校内一の暴力少年がいた。この児がところどころ残っていた十五、六枚ばかりのガラスを、一つ一つ、椅子を振りあげてたたき落としたことがあった。ある先生に反抗したのだそうで、大騒動だった。次の年受け持ってみると、これがめっぽう人なつっこくて、まるで咽喉を撫でられる黒猫の風情であった。時々見せる孤独な表情に胸うたれ、家庭訪問してみると、父親は戦死、母親はゆくえ知れずだと、腰の曲がった老婆と老爺が私の手をとって泣いた。あの草小屋も崩れ果てたろう。》
 いま、大学を卒業させてもらって、さらに高給をもらって、教師を長年続けている人でさえ、暴力少年を手なづけることができず、時々見せる孤独な表情になすすべをもたないのが大半です。しかし、彼女は十九歳の代用教員であったときでさえ、校内一の暴力少年を手なずけることができた人です。そして彼をはぐくむ老婆や老爺に、慈愛の尊さを示すことができたのです。
この作品に近づく表現をどこかで読んだような気がして、ふと、渡辺郁夫氏の本を探しました。『こころの回廊 本願と出会う旅』をみつけ、ところどころ読み返してみました。やはり、この人でした。
   渡辺郁夫氏は、広島の私立の修道高校を卒業して、早稲田大学を大学院まで出て、母校の中学高校の教師をされており、私達は中国新聞で、先生の記事を見て先生に会い何冊かの本を購入させていただいていたのでした。渡辺郁夫氏はただ、戦後に生まれ、石牟礼道子のような、試練をくぐっていないぶんだけ、浄土感に違いがあるのではないかと思われてきます。東洋哲学によって浄土を極めようとされた筆の先にあるものと、浄土を刹那に受け止めることによって生きてこられた人との違いのような気がします。
 そう思いながら、渡辺郁夫氏の『こころの回廊 本願と出会う旅』の「渡る島」にある、
 《平清盛は現在の社殿の基礎を築いたが、まもなく平家は滅びた。また豊臣秀吉は千畳閣造営を手がけ、未完成のままなくなった。厳島の海上の大鳥居は、遠く人を招きつつも容易には人をくぐらせない。渡ることを拒む狭き門でもある。この島は富みも権力も届かない世界があることを示し続けている。》
 と、いう部分を読むと、それではいったい、どんな人がこの門をくぐれるのかという問いに、石牟礼道子氏が不条理の中にしか生きられない、あるいは不条理によって、生きることさえ許されなかった人にこそ、生きているその実態に浄土があると、私達に教えてくれているような気がしてくるのでした。
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コメント
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「こころの回廊」が出てきたので、入院したときに差し入れしていただいてベッドで読んだことを思い出しました。あれからもう6年になるんですね。
http://blog.livedoor.jp/shimuratakeyo/archives/55594214.html
ところで、本をお返しした記憶がありません。頂いてしまったのでしょうか。ありがとうございました。
2016/09/02 22:42  | URL | 志村建世 #-[ 編集]
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 さっそく、志村さんの読後文を読み返させていただきました。《著者としては地理的な軸と時間の軸とを重ねて、時空の一致する深遠な「本願」への回路をイメージしているようですが、私はもっぱら、ふっくらした温かさのある紀行文として読んでいました。》この感想が表現できる志村さんがすごいと思います。まさしく、石牟礼道子著 『花いちもんめ』 から受けた感想です。これが、彼女の『苦海浄土』では、地理的な軸と時間の軸とを重ねて、時空の一致する深遠な浄土を見つめる水俣病被害者の究極の場面を描いている部分は寄り添える彼女にしか感じて表現できないもので、これが、彼女の作品を読むことの意味です。その部分に触れると涙もろい私などは涙が止まりません。
 志村さんに読んでいただいていたことによかった!と思いました
 
2016/09/03 11:05  | URL | 深山あかね #-[ 編集]
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